たぶん、テーマ的に言ったらちょっと古いテーマの話になると思う。
でも物語的には、読後感としてはあまり古びた感じを受けなかった。
(これは、私自身が古びてるからかも知れないが。)
催眠糖を使って人を操る。
『沙粧妙子-最後の事件-』とか『ケイゾク』とかがリアルタイムの時期には、このテーマも旬だったと思うのだが、たぶんテーマ自体は正直古い。
でも、この作品はそこがテーマじゃない。
何というか、愛情の喪失と再発見がテーマと言うべきかと思う。
意地悪な言い方をすれば、この作品前後、上で上げた様なドラマなどがブームになった果てに、「人の心は操れる」を前提になった世界で、それでもドラマが成立するか否かの境界線の物語と言えるかもしれない。
この作品では、少なくとも主人公は一本の軸で行動している。
だが、「人の心は操れる」は結構扱いが難しいテーマで、混みいった状況を作っておいてそこを快刀乱麻に切り開くような展開を、つい考えてしまうものだが、古い作家だからこそか、宮部みゆきのこの作品はとても自制が効いていて好感が持てる。
何よりも、そのへんは主軸でないというのが清々しい。
結局この作品で語られているのは、人の愛情の有り様なんだと思う。
ある意味、とても古い展開。だからこそ古びない部分があるのだろうとも思う。
同氏の『ブレイブ・ストーリー』を読んだ時、『鋼の錬金術師』を読んだ時のような感覚を受け、「女性でないと男の子の成長は描けないのかも」と思ったりしたが、男女というより、「物語の力を信じられるかどうか」ということなのではないかという気もしてきた。
私が大学生の頃の表現の世界でよく言われていたのが「物語は死んだ」というテーマだった。
でもそんなことはない。
実際は未だに物語は力を持っている。
その当時に絶望した人々の影響を受けてしまっただけだったようだ。
なにが「物語は死んだ」だ。
そこで物語を捨てずに追い求めていたら…と夢想してしまうが、それは夢想で、結局、夢想できる人間だけが物語を紡げる。
物語の敗北ではなく、「物語を物語れない人の敗北」だったのだろうと思う。
宮部みゆきの作品を読むと、そうした物語臭さを感じる。
テーマより流行りより、物語。
そういう意味で(どういう意味だ)おすすめの一冊。
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