2016年7月25日月曜日

推理ドラマの真骨頂 『パーフェクト・ブルー』 宮部みゆき:著

「魔術はささやく」に続いて宮部みゆきの推理サスペンス。
人間ドラマがが骨太なので、ミステリとかサスペンスという言葉が微妙にしっくりこないのだが、この作品は推理物としてもしっかりしてて、最後のどんでん返しは驚いた。(と書いて、妙に期待されても困るが。)
ただそのどんでん返しも、ひとりひとりの思いの上に絶妙なバランスの上で成り立っていて、ただただ感服した。
宮部みゆきの推理ものの終わりはなんともほろ苦いことが多いようだ。
なんというか、一人の中の表と裏を組み合わせたら立体になったみたいな中で、正義と悪、快不快の二項の視点で見ると座りの悪い、そんな感じ。
絶対の正義も絶対の悪もなく、それでいて、けして「良くあろう」とすることから背を向けない、そんな世界観は、荒川弘の世界観にも通じる。(そういえば「ステップファーザーステップ」で荒川さんが表紙を書いたりしてたなあ。)
細かいところを見ると古いのだけど(赤い公衆電話とかテープ式の留守電とか)それをそれとして流せれば、メインのドラマはふるびてないようにおもう。
面白かった。

2016年7月7日木曜日

愛の有り様の物語 『魔術はささやく』 宮部みゆき:著

たぶん、テーマ的に言ったらちょっと古いテーマの話になると思う。
でも物語的には、読後感としてはあまり古びた感じを受けなかった。
(これは、私自身が古びてるからかも知れないが。)

催眠糖を使って人を操る。
『沙粧妙子-最後の事件-』とか『ケイゾク』とかがリアルタイムの時期には、このテーマも旬だったと思うのだが、たぶんテーマ自体は正直古い。

でも、この作品はそこがテーマじゃない。
何というか、愛情の喪失と再発見がテーマと言うべきかと思う。
意地悪な言い方をすれば、この作品前後、上で上げた様なドラマなどがブームになった果てに、「人の心は操れる」を前提になった世界で、それでもドラマが成立するか否かの境界線の物語と言えるかもしれない。