仁平説子・仁平義明共著による、自閉症とアスペルガー症候群の相違点と共通点を、いくつかのキーワードにまとめて、わかりやすく紹介している本です。
“アクロニム”とは頭文字のこと。
この本では、自閉症とアスペルガー症候群の子供を指導する、あるいは育てる上で、キーとなる要素を頭文字で集めた「いかのおすし」的な標語を紹介している本です。(ちなみに「いかのおすし」は防犯のキーワードで「いかない、のらない、おおきなこえをだす、すぐにげる、しらせる」を表すアクロニムです)
第1章では自閉症の、第2章ではアスペルガー症候群のそれぞれ特徴的な要素を話し、第3章ではどちらにも共通する要素を紹介しています。
第1~3章で示されているアクロニムを簡単にご紹介します。
第1章 自閉症の子どもへの対応
<よ・い・か・た・ち>
「よ」 予告で、見通し
いつもと同じであることで安定するので、時間空間人行為を構造化パターン化して予告する。
「い」 言うより、見せて
目で見た方が理解するので、言葉で指示するより、指示を目に見える形で伝える方が良い。
「か」 簡単、明瞭
同時に多くのことを処理することができないので、言葉を尽くすより簡単明瞭に短く伝える方が良い。
「た」 楽しいこだわり、見守って
それが、危険なものでない限り、こだわりは心の安定や新しい発見に繋がるので、無理にやめさせるより、見守る方が良い。
「ち」 小さなルールの積み重ね
社会のなかで生きていくために必要なことを身に付けさせるとき、大雑把な概念ではなく、具体的な小さなルールを積み重ねて身に付けさせていく方が良い。
第2章 アスペルガー障害の子どもへの対応
<よ・い・こ・せ・い>
「よ」 予告で、安心
状況判断にむらがあるため混乱や不安に。正しい状況判断のために事前に具体的に(決まっていることだけでなく変わる可能性があるならその可能性についても)予告をすると安定する。
「い」 言って、見せて
言われるだけでは状況を理解できない場合があるので、文字や絵や動作で見せる方が伝わりやすい。
「こ」 こだわる趣味は、特技に変える
自分が興味を持つ限られたジャンルに対する強い興味や集中力は、むしろ特技として育て、膨らまして上げた方が良い。
「せ」 説教せずに、ルールの説明
個人的な感情に訴えることを狙った説教は効果がない。みんなが守るべき共通のルールとして理論的に示した方が受け入れやすくなる。
「い」 いつも冷静、いつもおおらか
心が通じないことで怒ると、その意味がわからないため怒りや戸惑いを生み悪循環となる。心が通じないことを前提に冷静に、気持ちをおおらかに持った方が良い。
第3章 自閉症とアスペルガー障害の子どもに共通する対応
<あ・ゆ・み・よ・り>
「あ」 焦らずに、子どものペースで
短期的には結果が出ない。焦り過ぎるとそれがトラウマになることも。その子の長い人生のことと考えて、焦らず、子どもが受けいられるペースで進めた方が良い。
「ゆ」 ゆっくりのんびり、見守って
自分のペースでないとなかなか行動を切り替えられない。「急いで!」「はやく!」と怒鳴るより、行動を示しつつ、可能な限り子どものペースを見守った方が良い。
「み」 見つけよう、子どもの生きがい
自由な時間を周りと合わせて楽しむのは苦手。興味を持つものを活かしたり、役割や手伝いや遊びを示して選ばせる経験を積ませると良い。
「よ」 読みとろう、子どもの心
自分の気持ちを言葉にしたり動作などで表現することが難しい。気持ちや意思をくみ取り表してあげ、表し方を示してあげると良い。
「り」 理解することは、愛すること
可愛がることは大事だが可愛がっているという想いは伝わらない。伝わらないということを理解してあげる事が愛することになる。
最後の第4章では、自閉症とアスペルガー症候群との違い・特徴をとってもわかりやすく紹介しています。と、同時に、そうした違いは個人の上では明確なものではなく、その子の症状に従って適宜キーワードを組み合わせながら、対応すべきと結ばれてます。
ロールシャッハ・テストの結果
インクの染みが何に見えるかを答えさせるロールシャッハ・テストをすると、自閉症の子は「わからない」と答える率が、アスペルガー症候群の子は脈絡のない不思議な答えをする率が高いそうです。前者はイメージのとぼしさ、後者はイメージの根底にある(一般的なイメージから離れてた)経験の独自さが原因であると言われてます。
不器用さの意味
自閉症の子もアスペルガー症候群の子も、決められた運動を行うことが苦手で不器用な場合が多いのですが、その不器用さには違いがあり、自閉症の子は予期する能力が乏しいため常に動作が遅れますが、アスペルガー症候群の子は予期しない状況に混乱するため突然変化するような時に有意に遅れます。
これが、自閉症の子の「予告で、見通し」と、アスペルガー症候群の子の「予告で、安心」の差になっています。
全体として、とってもわかりやすい本です。
各キーワードを紹介するだけでなく、具体的なうまくいった例、いかなかった例も紹介されているため、一緒に生活する立場、教育・指導する立場の方にとって、スタート地点において具体的な行動の指針とするにはちょうど良い本だと思います。
ただ、二つの症状の違いを紹介しつつも、第4章の最後に「現実の証拠に対して開かれた心」と題して、こうした症状は一様ではなく個人差がかなりあり、両方の症状を兼ねる場合も少なくないため、診断名にかたくなに“こたわらない”ことが大事だと書いてます。
子どもの現実の特徴に応じて柔軟に臨機応変に組み合わせて試していくのが良いということですね。
興味のある方は、ぜひご一読ください。
(A5サイズ136頁程なので短時間でも読めますよ)
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