青空文庫で読んだ。
「イワンの馬鹿」トルストイ著 菊池寛訳
まだ、共産主義が夢として語られていた時代の労働賛歌。
一言で言ってしまえばそんなお話。
馬鹿こそ賢い、と言うか、身体感覚が一番正しいという信念を軸にしたファンタジーであり、トマス・モアの『ユートピア』に通じるものがあるが、後者が、ユートピアをユートピアたらしめる原動力を語らないのに対し、今作品では、イワンの「いいとも、いいとも」が、その原動力として語られている。
と言うことは、イワンの死後、この馬鹿たちのユートピアがさかしい者たちの攻撃を払いのける原動力を失い、デストピアになったことは想像に難くない。
馬鹿が賢くなるには努力すればよいが、馬鹿が馬鹿であり続けるには才能が必要で、特定個人の才能に根差したシステムはその個人の死去によって崩壊せざるをえない。
序盤のお伽話的な場面では感じない不安感が、馬鹿の王国の完璧さを語る後段に行くに従って強まって行くのを、この王国ではテーブルに着く権利はなさそうな理屈屋の私は感じてしまうのでした。
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